雨宮まみさんのブログを読んでいたら「ヱヴァ:破」が見たくなった。
 あたしがここ数カ月「見たい見たい読みたい読みたい」と思っている作品はたったひとつしかなくて、それはつまり園子温が「愛のむきだし」とかでやったことのもうちょっと先にある作品で、それがいったいどういう作品なのか知らないけれどとにかくそれが早く読みたい。その作品が今あたしが思う地球上でもっともおもしろい作品だ。「それ」はあたしが知ってるかぎり「映画」か「小説」か「演劇」(あるいはまったく新しい表現形態でもいいけれど)など何か物語性を持った表現媒体で表されるもので、実は「1Q84」が「れれれ、これあたしが求めていたやつかなっ!」と思っていたのだけれどぜんぜんちがって、それ以来「なんかもういいや」と思っていたのだけれど、今「『ヱヴァ:破』がもしかしてそれなんじゃないの?」とちょっと思ってる(その斜め下ではなく斜め上を行けばいい)。
 シンジがアスカの首を絞めるそのコミュニケーションはディタッチメントだったと思う。イシダユーリさんの「34」という詩に「首しめ遊びでだって泣けるって」というフレーズがでてくる。首絞め遊びで泣けるんだったらあたしはべつに首絞め遊びでいい。シンジがアスカにたいしてやったことはもしかしたら首絞め遊びかもしれないけれど、それでシンジが泣けるんだとしたらそれはせつじつだ。あたしはたぶん首絞め遊びでも泣けない。首絞め遊びで泣いてしまう人間がいてもしかりにそのひとがちゃんと人間だったらあたしはそれでいいと思う。ちゃんとそのひとを好きになりたい。首絞め遊びの肯定は首絞めの否定になるのか、あたしにはわからない。首絞め遊びでじゅうぶん泣けるならばべつに首を本気で絞める意味なんてないし。でも「ヱヴァ:破」(以降)が「首絞めで泣ける映画」だったとしたらあたしはそれを見たいし、なんていうか、シンジくんが「遊びで首を絞める」以外のコミュニケートの手段を持ちえるのだったらちゃんとそれを見たいし、あるいは「首絞めじゃないべつの方法」でコミュニケートしようとするんだったら、それをちゃんと見たいと思う。
「紀子の食卓」なんて家族遊びだし自殺遊びだ。でも家族遊びでもそれはちゃんと家族だったしみんな泣いてたし、自殺遊びでも電車に轢かれれば死ぬのだからそれはちゃんと自殺だ。
 今まで秘密だったけど、あたしは「あたし遊び」をしている。
 ふん。ばかみたいにきもちわるい話になってきたけれど、けっきょくあたしは「あたし遊び」をしているのがいやなだけなんだってさ。くだらないうえにきもちわるいね!

   ◇◇◇

 現代詩文庫の「尾形亀之助詩集」を読んでいる。このひとの詩はちっともぜんぜんまったく好きじゃないけれど何かへんな具合に超越しててすごい。いまのところいちばん衝撃的だった「馬」という詩を全文引用。


 三十になれば――
 そんなことを思ひつづけて暮らしてしまつた
 一日

 ずつと年下の弟にわけもなくうらぎられて
 あとは 口ひとつきかずに白靴を赤く染めかえるのに半日もかかつて
 何を考へるではなしいつしんに靴をみがいてゐたんだ

 そして夜は雨降りだ


 すごい。意味わからん。

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(1990/10/15)
松田聖子

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 気がついたら「俺ってかわいそうじゃね?」という独り言がでていました。なんですか俺死ぬんですか、これ何かの病気ですか?

   ◇◇◇

 水曜日は調子乗ってアルバイトの夜勤明けに学校に行ってごにょごにょやっていた。9時頃おうちに帰り目覚ましを12時にセットし、ぴぴぴと音がして目覚ましをとめ「あー12時だなー」と思ったら意識が遠くなって次に気がついたら2時30分だった。レポート出さなければいけない授業が終わってた。もうどうでもよくなってまた寝て今度起きたら6時30分だった。
 内々定者懇談会に行ってきた。特筆すべき事項は何もなし。暇だったので「あーこのスイッチ押せば俺内定取り消されるんだなー」と思って過ごした。俺は俺の性質をフルに活かしほとんどしゃべらなかった。

   ◇◇◇

 松田聖子にハートをRockされた。

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 いつものとおりアルバイトは暇だから、到着したばかりの新聞を読んでいたらピナ・バウシュが死んでいた。あーあたし馬鹿だなあって思って、というのも、あたしがもういちねん早くダンスに興味を持っていたらちゃんとピナの公演を見ることができたのにって思って、思ったよりもショックを受けている自分にショックを受けていて、ピナの舞台なんて一度も見たことないけれど、ないから、「来年は日本に来るんじゃないかなあ」って言われてテンション高くなって、「よーしパパ仕事さぼってでも見にいくぞ」って思ってた矢先だから、なんだかそれってへんな気分で、べつにピナがどうとかそういう問題じゃなくて、ただ、あたしはあたしが好きなひとたちがピナピナゆってるのがなんだかいたく感動したから、主体性なんてないから、あたしは「あーじゃあ俺もピナ好きかもな」って思ってピナ見たいって思ってただそれだけだから、それだけでも、ちゃんと好きになる可能性だってあったのに、だからそれもったいないってことで、振付とか演出とかが演劇やダンスにおいてどんな役割をするのか、あたしはいつも知れないけれど、たとえばクラシックで、指揮者がその練習において楽曲をどんなふうに表現するのかという点で演奏者たちの演奏をどうまとめあげていくか、本番の前にやらなくてはいけないその作業っていうのは、たぶん、ほんとにあって、ひとりの指揮者が死ぬということはだからひとつの音楽が死ぬということで、その指揮者がなそうとした音楽はもう聴かれないということで、同じように、ピナが死んでもピナの舞台はもしかしたらやることだってあるのかもしれない、けれど、ピナがなそうとした舞台はピナが死んじゃったら実現されえないんじゃないかって思えて、あ、きれいなものが見たい、思うに、きれいなもの、あたしがその瞬間にきれいだと思える意味でのきれいなものというのはこの世界にはとても少なくて、ただあたしたちは探しかたを工夫しているだけで、きれいなものっていうのはぜんぜん、少なくて、というよりも、きれいなもの楽しいもの喜ばしいものっていうのはとても少なくて、何かふたり麻痺しあったような感覚で、きれいなもののなかにいたいって思いながら、生きてる。
「ブログなどで、『亡くなった』と書くべきところを『死んだ』という言いかたで書くひとがきらいだ」と言うひとがいた、あたしは「亡くなった」と書けばそのひとを悼んでいて「死んだ」と書いたらただのニュースにすぎないと感じているとは思わない、死んだひとを悼む行為を特に立派なことだとも思っていない、「亡くなる」という言葉に奥ゆかしさを感じるだとか、死者に対して敬意を表しているだとか、そういうことを指して「言葉の可能性を信じている」だとかは絶対言いたくない、あたしはそのひとが主張しているだろうことの逆の意味で言葉を信じたい、言葉を使いたい。

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 午前10時ゼミ始まるなり、発表者来なかったなり、そのあといきなりSさんの個別ゼミに強制参加させられたなり、なんとなくわかっていたけれどやっぱりあたしの研究につっこまれたなり、英語の論文を渡されて「じゃあ一週間で読んできてください」ってあたしそういうキャラクターじゃないなり、だいたい今週レポートいくつあると思っているなり、就職活動終わったら暇かと思ったらぜんぜん暇じゃないなり、それはいいとして、9月のゼミ合宿の最終日とあたしが楽しみにしていた某ダンス公演の日程がもろかぶりしているなり、もちろんとっくにチケット取っちゃったなり、しまったなり、余裕こいて「え〜俺9月暇だし〜いつでもいいよ〜」とか言ってたあたし馬鹿すぎるなり、合宿の最終日の早朝にあたしと車が忽然と消えていたら察してほしいなりよ。
 今日の日記は古語で書こうとして2文めで諦めた結果なりよ。

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男は夜の日に夜と口づけをかわした
それとは別に夜になると夜のなかに沈んだ
さびしいのだ
しいしいと口のなかに夜がひっかかった
人間だからな
伸びた爪と風呂あがりの肌が乾燥した
残響は夜ではない
ひきずってしまった
火祭りの後の選抜
抜きでたものが男の足
赤が黒より1ミリ近く長くたって
告白は破られはしないのにな
草に火をつけたのは男の責任
子供を盗んだのは男の解釈
夜がばらばらになり
別の女の手紙になる
   
   *

乳母車から子供が盗まれた
男は子供をかかえて夜の街道を走った
時速が切り替わるごとに男は間違える
子供の将来の選抜
迫りくる愛も感情も殺した
殺して殺して殺して
そして足も殺した
足が悪いから足を殺さなくてはいけない
宇宙線が降りて男の脳細胞を殺した
頭が悪くなったから特に足を殺した
きりきりやると付け根から外れた
降る弾丸で粒子の穴が開き
微細なものが空気に溶けていった
目が噴射され遠い場所を見た
子供の将来の選抜
夜の向こう側もまた夜と同じ色であり
だから足を殺さなくてはいけない
足にガムがついているからガムを殺した
暗闇と穴が殺害によって差異を殺した
子供が足を欲しがっているようだ
なのでまず足から殺すことにした
きりきりやると付け根から外れた
爪先につまっていた虫が宇宙を越えた
羽根をひろげて皺のなかを飛んでいった
足の裏側で世界が祈られた
殺した足が見つからない
だから足を殺すことにした
きりきりやると付け根から外れた
祈りで砂漠が開拓された
砂粒が脳皮となり血液が地下となり
男の顔をした植物が
ほーら
もう枯れちゃって…

   *

脳の裏側まで走りぬけた
月がくるりと裏がえり
殺した男が現れた
抱きかけの子供がいつのまにか増えていた
夜に夜に夜に溶けて居残り
半分泣いた顔で男の足を囲んでいた
どこへ持っていくんだよ?
どうせ男がいつも知っている場所へ?
子供の口から男がさかさまに生まれ
脳皮と足が接続された
新たに宇宙に個人が生まれ
倒れた男は地面にくっつきとれなくなった
手紙を携え回転しながら飛んでいく
決して血を流さなかったただひとつの革命
こころの表皮で兵士が笑った
ガラスの言い訳がつぎはぎをこしらえる
足を生もうとした子供たちがつっかえた
足に連なったまま宇宙へ飛んだ
足の柱が告白を生む
唯一の女からの恋愛だった
はしゃぎすぎた記憶がとりだされ
残ったのはチーズのような記憶
街には男の顔がこびりついた
飛んでいってしまった場所から確認された
宇宙衛星はまだまだ不潔だ
指先同士で連絡してるやつらと
仲良くなれるものか
その場所に行くのが嫌だったから
足を捜した
紙ぺら一枚つけて夜道に転がっていた
その横に子供がはりついて離れなかった
恥の意識が目を潰した
落ちた目玉が男の唾で燃えた
子供と足も一緒に燃えた
たぶん
さびしかったのだ

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