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心臓のかたち

2009.01.11(18:48)

老人はもう荒れることのない海を眺めていた。おまえの小さな絶望の隙間が破れて、やがて心臓のかたちをした愛に回収されていくその様を、待っていたのかもしれない。俺はいつも抱擁だった。唇の端から垂れている唾液は茶色く、まるで小魚たちが陰で復讐をくわだてたかのように、俺の無意識はいつも外界にされされていた。不釣合いな雪だった。部屋を埋めつくしたスピーカーが遠く離れ、ノイズが祈りとして地平線を描いたとき、確か、ひよこが足を失ったのだった。解決されない問題を前にすると、おまえはいつもわざわざピントのずれた眼鏡をかけなおした。縁が橙色をした、歳老いたおまえにはもう似合わない、レンズがすっかり埃にまみれた眼鏡だった。もう「失くした」と言っていたはずなのに、おまえはそれをすっかり忘れ、無邪気に俺の前にさらし、くだらない話をくりかえしている。必要のない嘘が俺をまんなかにひっぱりだし、宇宙線が注ぐ二月二十四日、頼りない指先が再生するはずだ。紫色の女が俺の前にやってきて、着ている服を一枚ずつ脱いでいく。玉葱のように女はいつまでも服を脱ぎつづけ、やがて俺の爪ほどになったとき、死後のような声をしてようやく「抱いて」と言った。俺は女を抱いた。溝川の上に小さな烏賊が二百匹浮きあがり、カーテンを開けないと誓った子供の心を開いたことがあった。冷蔵庫のなかには腹を空かせた虎がいつでもいた。世界が心臓のかたちに縁どられ、音のないあらゆる望みが剥がされていき、それでも、俺たちは少しずつ幸せになれるはずだった。





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