スポンサーサイト

--.--.--(--:--)

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。





スポンサー広告 トラックバック(-) | コメント(-) | [EDIT]

残響船

2010.04.17(00:43)

らっきょうをかぶって、戦場にいた。兵士は戦いたかった。戦う相手がいなかったから、割れた学校の階段をのぼった。女の子と手をつないで。兵士は東京に生まれて、東京で死んだ。海を見たいと思った。きみがすぐそばで横たわっているとき、兵士は首をのばしたいと思っていた。わたしたちが戦争をするとすれば、兵士はそう思った。きみたちがすぐそばで横たわることが条件だ。まるまったものをこねくりまわして、火を飛ばして遊ぶ。たくさんの紙きれを武器にして、折り鶴という名前の兵器を買う。そして生まれかわったら音楽になりたい。雑巾で拭きとられたとしても、壁と壁の狭間でかろうじて居残る程度の音楽に。
機械をいじくっているうちに、機械こそが革命だったと理解した。機械のとなりではいつも機械が微笑んでいるから、兵士は恥ずかしくなってバスタオルをかじってしまう。空色のバスタオルを羽のようにして、いつか、この要塞から抜けだしたい。

兵士:たとえばわたしが月であったならば、きみは指先をのばしてくれるだろうか。

女の子:あなたが水没だったならば、わたしはそれでもよかった。でもあなたは水のなかで穴を掘ってばかりいて、わたしは古い家屋のような目でそれを見つめているしかなかった。

両手のかたちをした爆弾を、兵士は女の子の唇に投げつけた。たいしたことはないと思っていたんだ。牢獄のなかで兵士は逆さ吊りになって笛を吹いた。爆弾を投げつけたくらいであの子が死ぬなんて、ほんとうに知らなかったんだ。椅子の下にだけ雨が降っていた。兵士は椅子の真下で凍え、椅子の背面にはりついた雨のかたちをした太陽を見つめていた。ぼきりぼきりと兵士の指が自動的に折れていった。たぶんわたしにはたいせつなものなんてなにもないんだろうと兵士は思い、ひっそりと、不気味なことを思いかえしていた。どうしてわたしが戦う敵兵はみんな犬の姿をしていたんだろう。どうしてわたしの上官は毎日サラダだけを食べてすごしていたんだろう。どうしてわたしの手紙だけいつも機械油でよごれていたんだろう。女の子はパンを食べながらゆっくりと草を抜いていた。庭をきれいにして、じょうろを買ってこよう。そしてわたしを水浸しにしてじょうろといっしょに死んでしまおう。そのとき、わたしはしっかりと奏でられる音楽になるだろう。女の子の手には兵士の右手がついていた。でも兵士の右手には何もなかった。わたしがあのとき女の子からもらった右手はどこにいってしまったんだろう、兵士は不思議だった、それはどこにもなかった、それはもう兵士が食べてしまったからだった。女の子はコルクのようなかたちをしていた。数匹の蟻が女の子の髪の毛に巻きついてやさしく死んでいた。たとえば愛とはそういうかたちをしていた。草はいやしくかたちを変え、海になっていた。海はわたしたちのこころのもっともせつない部分を流れる魂の要素だった。兵士は海を併合し、女の子は渡り蟹を集めてつくった小舟で海を渡った。そしてそこには語られない物語があった。兵士はひとつの物語を思った。物語の外観は女の子のかたちをしていて、その女の子は兵士がかつて見つめあったなかでもっとも愛し、もっとも手をとりあったひとだった。けれどそれはもうひとではなかった、ひとのかたちをした舟だった。女の子のなかには動物のつがいがのりこみ、おおきな天国を形成していた。動物たちはさかり、そして凶暴になった。ほかの動物を食べ、自分の子供を食べた。だから女の子のかたちをした物語はいつも悲しい顔で兵士を見つめていた。兵士に動物たちを殺してほしかった。にんげんだってかんたんに殺せたあなたなら、動物なんてもっとかんたんに殺せるでしょう。できないよ。兵士はそう思った。子供の頃母親に買ってもらった黒い鞄の奥底のような牢獄のなかで、葉に湿った吐息をつぶしながら、兵士は首をふった。だって、きみはもうわたし以外のわたしが愛するすべてのひとをのせた舟なんだから。





コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:
http://kizuki39.blog99.fc2.com/tb.php/1140-609becae
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。