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ああ、きみに肉体があるとはふしぎだ。

2010.06.11(18:58)

清岡卓行詩集 (現代詩文庫 第 1期5)清岡卓行詩集 (現代詩文庫 第 1期5)
(1968/02)
清岡 卓行

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 わたしの頭のなかには妖精の手や足や首が降りそそいでいた。彼らはばらばらになってまでもくるくるとまわり、わたしに美しい魔法をかけつづけていた。彼らは魔法をかけつづけながら死んでいた。魔法をひとつ放つたびに手足の皮が一枚ずつ剥がれ、内臓はかけらとなり、やさぐれた雨のようにわたしの頭のなかの空間にひろがっていた。助けてくれとわたしは言った。でも、わたしの声なんてだれも聞いてはくれなかった。彼らは首になって飛び、するどい歯でその時空間をがりがりと噛みくだいては口にふくみ、猫のおなかのうえにかけてよごしていった。猫をよごすひとはきらいだ。わたしはいつかだれかに何度か語りかけたけれど、猫をよごすひとはこの世界に何人かずつ束になっていて、石を投げつけられながら、まるでそれが彼らの選択したたったひとつのさえないやりかたであるかのように猫のおなかのうえに時空間を吐きつづけていた。かなしかった。わたしはいまこの世界でいちばんかなしいよ。そう言いたかった。けれどこの世界でいちばんかなしいひとはいつもこの世界と等しい数だけはちゃんといて、それぞれが石のしたのだんごむしのようにうねうねと動き、世界の空間の一部を花で飾っていた。なんて世界だろう。けれど、わたしはこの世界で生きていくしかなかった。わたしは飛びたかった。この世界の屋根をぎりぎりつきやぶらないような低さで、この世界を飛びたかった。「氷りつくように白い裸像が/ぼくの夢に吊るされていた//その形を刻んだ鑿の跡が/ぼくの夢の風に吹かれていた//悲しみにあふれたぼくの眼に/その顔は見おぼえがあった//ああ/きみに肉体があるとはふしぎだ」。わたしたちの果てに氷のような石膏があり、かりにわたしが愛と呼ばれていたものをもらいうけにいくのなら、わたしはその石膏にやさしく語りかけるだろう、「いや、僕が今日9時に起きたのはですね、けっして寝坊したわけじゃなくてですね、僕はわるい病気にかかっているだけでしてね、それは『いつもよりうっかり1時間30分多く寝ちゃう』という性質のわるい病気でしてね、だからそれは不可抗力で、ぜんぜん僕のせいじゃないんですよね、だって始業時間が9時なのに9時に起きて間にあうはずないじゃないですか、知ってましたよ、知ってたのにそんなことするわけないじゃないですか、やだなあ、それは妖精さんのせいですよ、いままであぶないひとだなと思われるのがいやで黙っていたんですけれど、僕の部屋には僕のいないうちに僕の部屋を腐らせたり僕の部屋をほこりだらけにする妖精さんが住んでいてですね、今回僕が9時に起きたのもその妖精さんのせいなんですよ、だってその妖精さんが時空間をがりがりと食べちゃったものですから、僕はちゃんと7時30分に起きたのにまわりの時空間が欠けていたちょっと9時になっていた、ってそれだけのことなんですよ、というか、まえまえから思っていたんですけれど、2ヶ月ものあいだだれも寝坊で遅刻しないっておかしくないですか、おかしいですよね、いやおかしいんですよ、だから僕はその狂ったありかたを正常にもどしてあげただけですよ、今回の僕の勇気あるふるまいでみんなすこしは目が覚めたはずです、『ああ、遅刻をしていいんだ』と、『これがほんとうに正常な世界のありかたなんだ』と、僕がやったのはそういうこですよ、みんな、もっとまともに世界を見つめるべきです、僕はそう思います、寝坊しないなんて、世界に甘えているだけです、甘えるな、甘えないでください、目覚ましを時計買うから、ちゃんと、今度はちゃんと、目覚まし時計を買うから……!」、ああ、きみに肉体があるとはふしぎだ。




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